ハナボウズ

ハナボウズの山ログ

Science JA ↓ 69 episodes

​群馬県中之条町、標高1000mの山の中ハーブや宿根草を育てる「ハナボウズ」の園主(中島)が、日々の農作業の合間に、山の音と言葉を記録しています。ステレオ録音で、山の中にある畑の環境ごと、カエルの声、鳥の声、風の向き、遠くのチェーンソー音、この山に生きているものたちの気配を伝えたい。いつか誰かがこれを聞くとき、その朝の空気が伝わったら面白いなと思っています。ハナボウズ圃場コード:たびたび登場する、畑の定義です。​K = 湿地・開放農地・森林が接するエッジ環境​A = アトリエ(現在の作業場の隣)​G = ゴリラ形の岩がある枝もの畑(Aから100mくらい)​M = 開拓時に水鉄砲がぶら下がっていた畑、標高1030m・北向きの...

Author

ハナボウズ

Category

Science

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Jul 8, 2026

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Episodes

薄着で寒い山を舐めてはいけない 24.04.2026

四月の晴天は、しかし欺く。Kの石のベンチに腰を下ろした中島の背には、吾妻の風が容赦なく吹き付けていた。薄着のまま働き通した一日の末、体は冷えを芯まで受け取っていた。 今日は妻とふたりで路地に出た。ヘレニウムとフロックス——その根元に絡みつく草を、ひとつひとつ手でほぐすように取り除く作業。フロックスはかつて植えた場所に、誰に頼まれたわけでもなく根を張り直し、気がつけば株を増やしていた。土の記憶というもの...

初切り 23.04.2026

桜が散り始めた4月の朝、Kフィールドの石のベンチに腰を下ろした中島は、今季はじめての出荷を終えた手のひらを眺めていた。アストランティア40本、アルケミラ100本。数字は乾いているが、その重さは確かに、今年という一年の口を開けていた。 このエピソードでは、初収穫の報告とともに、花屋を目指す若者との出会い、グリーンパルの総会で気づいた「農業5年目」という実感、そして新規就農者たちの現実について話す。土地も機械...

まだ分からない 21.04.2026

四月の晴れた日。Kのハウスの石のベンチに座ると、風が思ったより冷たかった。桜はもう散り始めている。 この日の中島は、灌水の確認をしながら、明日から始まるアルケミラとアストランティアの収穫に向けて気持ちを整えていた。花楽の里の寺田さんから「いかつくてデカくなる」と言われたジョーパイウィードの株をもらい、栗の木の下に植え付けた。 畑には数日前から広げたかった堆肥があった。昨晩から雨が降ってくれた。雨の直...

5歳の誕生日と石のベンチ 19.04.2026

K圃場の石のベンチから録音している。山桜が満開で、四月の陽光は急に真夏の顔をしていた。今日は娘の五歳の誕生日で、夕方には義理の両親が訪れる。妻が家の中で掃除と料理の準備に追われているのを知りながら、中島は畑仕事を口実に外へ出てきた。農家の時間は、人の都合より先に動いている。 先週読んだカラスの本から、一つの仮説が浮かんでいる。ハシブトガラスは山にも都会にも棲む。山には人が少なく、木と野生動物だけがあ...

反省と感謝の1週間 17.04.2026

畑でスタックしていた牧場主のホイールローダーを、ようやく救出できた。土木屋さんのおかげで作業は15分で片がついた——けれど、急いで返しに行ったせいで、腹についた黒土を落とすのを忘れていた。指摘されてはじめて気づいた。「早く返す」という気持ちだけが先走って、丁寧さが追いつかなかった。動噴で泥を落とし、洗い直して届けた。リース料の一部を申し出たら、穏やかに断られた。 Kの石のベンチで今日を振り返りながら、ふ...

山桜の下に作物が植わっている 15.04.2026

四月の曇り空の下、中島はハウスでアルケミラとアストランティアに水をやりながら、今年と昨年の植物の伸びの逆転に気づく。Kの露地畑では山桜が二分咲き、その後ろにはスタックしたままのWA100。 春の景色と積み残した仕事が、静かに並んでいる。 そして今朝、録りためた山ログをまっさAIに読み込ませたら、思いのほかいい返答が返ってきた。その対話の一部を下に貼り付ける。 気分スコア2。疲れた日も、ログは続く。 【以下、私...

マキタの充電式チェーンソー 14.04.2026

チェーンソーのボタンを押す朝がある。エンジン式のような儀式は要らない。ただ音が立ち上がり、気持ちが少しだけ前へ動く。 今回のログは、G圃場でのディアボロ(フィソカルパス)の剪定作業。昨年の丸坊主から、今年は切り株状に整える。先輩の言葉が手に宿っている。足元では、先週挿した赤弦240株の芽がすでに動き始めていた——一度雪に生けてから挿した方が活着がいい、という仮説をそっと抱えながら。 昨日はPTA総会。中之条...

山の残雪は馬の形に見える 13.04.2026

Kの石のベンチに腰を下ろす。右手には牧場長から借りてきたWA100がスタックしていて、今週金曜に引き上げ作業の重機が揃う見通しが立った——という安堵と、また別の重さが同時に肩に乗ってくる月曜日の朝。 昨日はホンダさんからいただいたアカツルをG(ゴリラの岩の畑)に全部挿し終えた。3年後以降に冬季作物として回収できれば、という話。今日は露地のセダム防除を開始して、ヒメヒマワリとヘレニウム(リトルヘンリー)の移植...

石のベンチ 12.04.2026

晴れた朝、K畑のハウス東側、石のベンチに腰を下ろした中島の視界の右手には、牧場から借りた小松のWA100が、ぬかるみに沈んだまま動かずにいる。一昨日の雨の中で起きたそのスタックは、まだ解決されていない。見るたびに、少し重たいものが胸に落ちてくる。 ただ、怪我はなかった。ヤマギワさんも、中島も、無事だった。その事実をひとつの着地点として、中島は今日の畑へと向かう。 昨日は、そのホイールローダーを横目に見なが...

ホイールローダーが畑でスタックしたよ 10.04.2026

午後、雨が戻ってきた。 牧場から借りたホイールローダー コマツのWA100、何トンあるんだろう、でかい機械だ——で堆肥を畑に入れるところまでは、うまくいっていた。バケットで直接圃場に突っ込んで、量は落とせた。問題はその帰り道だった。水場と畑と水源が作る三角形の中で展開しようとしたとき、ホイールローダーが畑の道でスタックした。 気分スコアは「1」。テンションは、なぜか高い。 トラブルに見舞われると人間はそわそわ...

やる気の出し方 10.04.2026

朝は雨だった。だから今日はゆっくりできると思っていた。ところが空はそんな段取りを無視して、急に晴れ始めた。中島は慌てて畑へ向かい、ハウスを開け、アルケミラへ水をやった。最悪を避けるために、とにかく体を動かす。それだけのことだったが、動いているうちに不思議と気分が上向いてくるのがわかった。 やる気というのは、待っていれば湧いてくるものではないのかもしれない。昨日のK圃場での掘り上げ作業で残った筋肉痛が...

ステレオ録音にしてみた 09.04.2026

四月九日の朝、霜柱が残っていた。夜が晴れれば地は冷える。春はまだ、仕事の途中だ。 前日の夕方、アルケミラとセダムへの防除を終えた。アルケミラにはもう花茎が上がってきている。花をかじられる前に手を打つ。段取りは、いつも前日から始まっている。 今日は妻と二人で、試験栽培してきた苗を土の中から掘り起こす日。ヒオウギ、バプテシア、アガスターシェ。調子がよかったものを選んで、次につなぐ。午後はG圃場で挿し木の...

透明マント 08.04.2026

四月の風は冷たく、ダウンベストをパーカーの下に重ねて畑へ向かう。アストランティアに水をやり、枯れ草を刈り払い、体を動かすうちに気分が2から3へ上がっていく。農作業には、薬より早く効くものがある。 Kのハウスに入るたびに、気づけば草を1本抜いている。特に決めたわけじゃない。ただ来るたびに1本。いつの間にかそれが習慣になっていて、いつの間にかハウスは綺麗になっていた。意志よりも、動線の方が人を動かす。 水場...

町内会に参加してきた 06.04.2026

土日、畑に行けなかった。でもそれには理由がある。 ナマス地区の町内会に出席していた。昨年度の会計報告、今年度の草刈り計画、そして飲み会。今年は町営住宅の班長も引き受けることになったので、先人たちに話を聞く絶好の機会でもあった。「地域の人に敵だと思われないためにも、顔を出すのは大事」——農家としてだけじゃなく、住民としての中島の話。 そこで見た光景が、ちょっと頭に残っている。女性たちがお茶を配っていた。...

決断 04.04.2026

四月の曇り空の下、アルケミラのハウスを開け、わずかに換気の戸を開ける。晴れ間が差し込んで苗が蒸し焼きになることを防ぐための、ほんの小さな隙間だ。昨日は病気疑いのセダムを廃棄し、路地から掘り上げた健康な株をハウスへと補充した。その作業のなかで中島が気づいたのは、妻の掘り上げの腕前だった。手際よく苗を引き抜いていく姿に、「掘り師」という呼び名が自然と生まれた。 今日は畑を休む。娘がバレエ教室に通い始め...

チェーンソーの音 03.04.2026

春の朝、Kのセダムハウスに入る。ハウス内の温度計は17度を指している。セダムにとってちょうどいい空気だ。気分は低い。それでも手は動く。 昨日はおぎはら植物園へ行った。棚の前を歩いていると、フラワーファーム沓掛の沓掛さんと研修生の清水さんがいた。同じように苗を物色している。真剣な目をした人たちがほかにもたくさんいた。ガーデニング好きも、農家も、みんな同じ棚の前に立っていた。おぎはら植物園は、草花に関わる...

雨の中の設計図 01.04.2026

雨が屋根を叩いていた。それでも中島は録音を止めなかった。 Yのハウスで冠水をして、ホースを点検して、除草剤を撒いた。チューブがあと3Mだけ足りない。土壌診断の結果はまだ来ない。何もかもが「もう少し待て」と言っている。 ずっと頭の中で宙ぶらりんだったYハウスの使い方が、今日ようやく声になった。4分割、防草シートマルチ、なるべく立ち寄らない設計。落ち込んだ日に誰とも顔を合わせずに済む畑というのも、ひとつの農...

仮説をほどく地衣類 31.03.2026

雨の朝、図書館で借りてきた苔図鑑をめくっていたら、ウメノキゴケという名前が目に入った。SOxに敏感で、空気汚染の指標になる地衣類だという。ところがこの農地の周りには、それがべったりついた木が何本もある。以前から温めていた「SOx→カルシウム不足→カタツムリ減少→鳥が減る→山の畑はカルシウムを入れているのでカタツムリの楽園」という仮説が、一ページでほどけた。 でも考えてみれば農業でも同じことは起きている。あの...

露地の作業始めました 30.03.2026

今日から露地作業を本格的に始めると決めた。G畑のサンゴミズキを掘り上げてK畑の端へ移す。ディアボロの草払い・剪定・機械入れ。土が湿っているから今日のところはセダムの草取りに充てる。段取りを頭の中で組み立てながら、A作業場を出て軽トラを走らせた。 戸高君の畑の横を通りかかると、彼がもう作業をしていた。ヤッホー、と声をかけて通り過ぎる。それだけのことだが、不思議とエンジンがかかる。やる気のない朝でも、同じ...

作業場の模様替えをした 28.03.2026

四年か五年、そのままにしておいた机があった。部屋の真ん中に島のように浮かんで、花を置く場所はどこにもなかった。それに気づいていながら、ずっとそのままにしていた。今日、中島は机を壁に寄せた。たったそれだけのことで、作業場が広くなった。 夕暮れ前の見回りで、イノシシの痕跡。マウンテンミントの畝が掘り起こされていた。獣の論理は単純で、腹が減れば掘る。そこに何年かけて植えたかは関係ない。 昨日は花の部会の総...

酸性雨という言葉どこ行ったの 27.03.2026

昨晩、AIと話していて気づいたことがある。「酸性雨」という言葉を、最近まったく聞かなくなっていた。 調べてみると、雨そのものが問題ではなくなったのではなく、問題の形が変わっていた。NOxやSOxといった大気汚染物質が、霧となって山の中腹に漂い、そこに住むカタツムリの殻の形成を妨げている。殻のないカタツムリを食べる小鳥たちは、卵に必要なカルシウムを摂れなくなる。酸性雨は「雨」ではなく「霧」として、静かに生態...

雨の畑、生き残りの話 26.03.2026

雨の朝、中島は畑へ出た。娘が胃腸炎で、体調が心配だったが、それでも長靴を履いた。 路地のセダムが、親指ほどの芽を出していた。冬を越えたというより、冬をやり過ごした、という顔をしていた。株間の整理を続けている。2条の千鳥植えを、1条へ。隣の株とぶつかり、真ん中が蒸れる——その問題を、少しずつ解いていく。33メートルの畝に100株。防草シートで左右を挟んで、セダムだけがぎゅうぎゅうと列をなす畑を、まだ頭の中で育...

名前も知らない人の家に花が飾られた 25.03.2026

【灌水音のBGM大きめ】 アルケミラの灌水音を背景に、ハコベを引き抜きながら考えていた。花は必需品ではない。それでも、群馬フラワーパークで花瓶を買いに戻ってきた若い夫婦のことが頭を離れない。名前も知らない。ただ、その日以来あの家に花が飾られるようになった。花を売ることは、花のある暮らしをゼロから一に変えることかもしれない。 古物商の許可が下りた。山の蔓や倒木も、誰かのディスプレイの骨格になれる。畑の隣...

花坊主のいたずら 23.03.2026

卒園式の朝、人前に立つという行為が、いつも思いがけない重さをともなう。拍手の中で子どもたちを見送り、声が震えたことを恥じながら帰り道につく。イベントの前夜に憂鬱が訪れること、航空券を取ったはいいが飛行機を前に沈んでいたあの学生時代のことを、今日もふと思い出した。 しかし、言葉にしてみると不思議と落ち着いてくる。気分1が、話しながら2になり、いたずらを思いついたところで3まで戻っていた。誰かに届けるため...

山に残る民話 22.03.2026

作業場に、見覚えのないインパクトドライバーが置いてあった。ピンと来た。5年前にこの土地を引き合わせてくれた、山本茂さんのやつだ。落とし物を届けに行ったら、思いがけず長話になった。 茂さんが言うには、この六合地区には民話がたくさん残っているが、書籍にはなっていない。手書きのコピーがあるだけだ、と。その紙束をもらって帰ってきた。声で読み上げて、文字に起こして、返す。そんな小さなプロジェクトが、今日の午後...

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