tosusia

余白の朗読室

Fiction JA ↓ 92 episodes

短編小説を朗読し、その余韻を少しだけ言葉にする番組です。AI、記憶、家族、創作、老い、別れ、そして人の心に残る小さな違和感を題材にした物語を扱います。noteで公開している短編をもとに、朗読版や解説付き音声を配信します。読み終えたあとに少し考えたくなる、静かで不思議な物語をお届けします。

Author

tosusia

Category

Fiction

Podcast website

podcasters.spotify.com

Latest episode

Jul 8, 2026

Where to listen?

Podcasts in the app Replaio Radio Coming soon

Podcasts are coming to the app soon. Install now and be the first to see a whole new take on podcasts

Get it on Google Play Install for free Android 5M+ downloads · 4.8 rating iOS soon

Episodes

遅桜 04.06.2026

noteでも公開しています 遅桜 毎年、妻と桜を見に行く。 今年は一週間遅れた。 忙しさに追われるうちに、季節だけが先へ進んだ。明日は大雨だという。今夜を逃したら、もう終わりだった。 わずかな隙間を縫って、二人で出かけた。 ゆっくり歩く余裕もなく、人混みをかき分けながら見て回るだけだった。 気づけば、足早になっていた。 ふと、頭上を見上げた。 散りかけた花びらと、芽吹いたばかりの若葉が入り混じり、桜が夜空にド...

卒業式 04.06.2026

noteでも公開しています **卒業式** 壇上の学長の声は天井の高い講堂によく響いたが、内容は頭に入ってこなかった。隣の田中が肘で突いてくる。プログラムの余白に、田中と交互に落書きをした。就職先の話、夏の旅行の話、どうでもいいことを小声で囁き合った。 やがて優秀論文賞の表彰が始まった。名前を呼ばれた学生が壇上に上がるたびに拍手が起きる。知らない名前ばかりだった。自分には縁のない話だと思いながら、それでも拍...

鑑定 03.06.2026

noteでも公開しています 鑑定  AIに、ふと聞いてみた。  これまでの会話から、私のことをどんな人間だと思うか、と。特に深い意味はなかった。キャンプの道具のことを調べたり、会社の報告書の文章を直してもらったり、そんなことにしか使っていない。リビングのテーブルに置きっぱなしのiPadを、妻の佐和子と共用していた。自分でも、ごく平凡なサラリーマンだという自覚があった。  返ってきた言葉に、目を疑った。  野心の...

旅に出た 03.06.2026

noteでも公開しています 旅に出た メールが届いたのは、娘が逝って三日後のことだった。 差出人はechoというサービスだった。登録していた覚えはなかったが、文面を読んで思い出した。利用者に予期せぬことがあった場合、遺族に通知が届く仕組みだと、どこかで聞いたことがある。 娘が使っていたとは知らなかった。 病院から出たことのない娘が、SNSの投稿から日記を作るサービスを。 訝しがりながらアカウントにアクセスすると、...

フリフリ 03.06.2026

noteでも公開しています フリフリ 散歩に出ると、すれ違う人がよく足を止める。 「可愛い」と言って、しゃがみこむ。ワンコのレイちゃんは尻尾を振りながら、その手に顔を寄せる。桜色のフリフリドレスに白いレース。その格好でフリフリ歩く姿は、どこから見ても可愛い。そう思っているのは自分だけではないらしい、と男は密かに満足する。 ふと、思い出した。 長女が小さかった頃、同じことをしていた。フリフリの服を着せて、ヨ...

緊急連絡先 03.06.2026

noteでも公開しています 緊急連絡先 echoからの通知が届いたのは、葬儀の翌日だった。 echoというサービスは知っていた。SNSや写真から日記を作り、利用者に予期せぬことがあると、登録された緊急連絡先に通知が届く。 なぜ自分が緊急連絡先なのか、わからなかった。 そこまで親しくなれたとは、思っていなかった。少なくとも、男はそう思っていた。 最初に近づいたのは、こちらからだった。 夫を亡くして、まとまった財産があるら...

連絡先 02.06.2026

noteでも公開しています 連絡先 メールに気づいたのは、昼休みのことだった。 差出人はechoというサービスで、件名には「登録されている緊急連絡先への通知」とあった。 名前を見て、少し考えた。 同棲していたわけでもない。 ちょっと付き合って、いつの間にか会わなくなった。 そういう相手だった。 なぜ自分が緊急連絡先なのか、見当もつかなかった。 echoというサービスは聞いたことがあった。 SNSや写真から自動で日記を作っ...

花びら 02.06.2026

noteでも公開しています 花びら  引越し先で最初の春が来た。  事務所の前に、気づけば桜の花びらが吹き溜まっていた。掃いても掃いても、風が運んでくる。しばらく箒を止めて、足元を見た。ピンクというより白に近い色が、アスファルトの上で薄く重なっている。  見上げると、通りの向こうに桜の木が見えた。前の場所からは見えなかった。移転を決めるとき、そんなことを条件にしたわけでもないのに、春になって初めて気づいた...

おせっかい 01.06.2026

おせっかい  田中が初めてそのAIを使ったのは、締め切り前夜のことだった。  検索でたまたま引っかかった。「Kotoba」という名前の、聞いたこともない国産AI。無料プランがあったので、試しにログインした。  新規登録ありがとうございます。どうぞよろしく。ところで、今夜は少し疲れているようですね。無理しないでください。  余計なことを言う、と思った。疲れているかどうかは自分で決める。  仕事の質問をすると、答え...

非公開 01.06.2026

noteでも公開しています 非公開 告別式が終わった夜、父がスマートフォンを持ったまま固まっていた。 「ちょっと来い」 画面を覗くと、インスタグラムのアカウントがあった。ユーザー名は曾祖父の名前をローマ字にしただけの、ひねりのないもの。フォロワーはゼロ。フォローもゼロ。非公開設定のまま、誰にも知らせず、誰にも見せず、十年間続けていた。 開設は十年前。曾祖父が八十五のときだった。 スマートフォンを持ち、家族と...

仮想現実 01.06.2026

noteでも公開しています 仮想現実 人口が十億を切った頃、現実世界はひどく静かになった。 きっかけは基本給付制度だったと言う者もいれば、生成AIが仮想空間の構築コストを限りなくゼロに近づけたからだと言う者もいた。どちらも正しかった。働かなくても生きられる社会で、人々は一人また一人と向こう側へ消えていった。SF的な近未来都市も、恐竜が闊歩する太古の大地も、プロンプトひとつで生まれた。その世界では誰もが王にな...

じゃんけん 31.05.2026

noteでも公開しています じゃんけん じゃんけんには、有無を言わさぬ力がある。どんなに複雑な揉め事も、いざじゃんけんが始まってしまえば、その結果に異を唱える者はいない。コイントスやサイコロよりも、その強制力はずっと強い気がする。 私はこの力を、ずっと使ってきた。 会議室での根回し、取引先との交渉、部署間の利害調整——そういった場面で最後の一手として機能するのが、じゃんけんだ。だから私は考えた。じゃんけんの...

本物 31.05.2026

noteでも公開しています 本物  最初に気づいたのは、コメント欄の片隅にいる名もない視聴者だった。 「このひと、昨日と声が違う」  誰も相手にしなかった。ユーチューバーというのは日によって調子が違う。収録環境が違う。気分が違う。そういうものだ。  だが一週間後、別のアカウントが現れた。  チャンネル名は「Kei_REAL」だった。動画の内容、編集のリズム、サムネイルのフォント、話し方の癖——すべてがKeiと同じだった...

最善 30.05.2026

noteでも公開しています # 最善  ラシードは若い頃、暗号理論を学んでいた。革命前夜、地下組織での通信を守るために必要だったからだ。権力を握った後もその習慣は残り、側近たちが政治の話をしている間、彼はしばしばシステムの設計図を眺めていた。  だから、AIの導入を決めたとき、ラシードは業者に丸投げしなかった。  呼んだのは国内最高の技術者、マフムードただ一人だった。面会は三回。いずれも深夜、記録なし。ラシー...

場を作る 30.05.2026

noteでも公開しています 場を作る  物理の教科書を閉じたのは夜の十一時だった。  橋本颯太は「電場」の項を読み返した。プラスの電荷は周囲の空間を歪める。マイナスの電荷はその場に置かれることで、自然に引き寄せられる。直接触れる必要はない。場が、そうさせる。  ——これだ。  颯太はノートを開いた。  重要なのは接触ではない。接触は高エネルギー状態であり、現段階では不安定すぎる。まず必要なのは、存在していても...

ラプラスの悪魔 29.05.2026

noteでも公開しています ラプラスの悪魔  宇宙のある瞬間における全ての粒子の位置と速度を知る知性があれば、過去も未来も完全に計算できる——ラプラスがそう書いたのは1814年のことだった。古典物理学の絶頂期、世界は完全に予測可能だと信じられていた。しかし20世紀に入り、量子力学は観測すること自体が結果を変えると示し、カオス理論はわずかな初期値の差が全く異なる未来を生むと証明した。ラプラスの悪魔は存在しない。世...

クレジット 29.05.2026

# クレジット  小説が最初だった。  生成AIによる作品が、人間の書いたものと区別がつかなくなったのは三年前のことだ。続いてイラスト、絵画、漫画。人間とAIの棲み分けが静かに、しかし確実に形成されていった。そしてその波が映画にまで来た。  実写と見分けのつかないAI映像が、従来の百分の一以下の予算で作れるようになった。大作映画ほど影響は深刻だった。大掛かりなセットを組んで、何百人ものスタッフを動員して撮る...

紙工場 28.05.2026

noteでも公開しています # 紙工場  三十年近く、ほぼ毎日働いた。最初は何もなかった。一人で始めた仕事が、少しずつ形になっていった。結果が出るたびに、次の依頼が来た。信頼というのは、そうやって少しずつ積み重なるものだと知った。自営業だから休みはなく、朝九時から夜十一時まで。仕事は嫌いではなかった。家族を支えていることに、充実感があった。それでも、三十年は長かった。  職場の近くに、紙工場があった。ダン...

平等 27.05.2026

# 平等  祖父は酒を飲まなかった。それでも夜になると決まって縁側に座り、庭を見ながら話した。  祖父の家は戦前、子爵の位を持っていた。広大な屋敷と田畑、使用人。それが戦後、跡形もなく消えた。財産税で土地を売り、爵位は制度ごと廃止された。気がつけば祖父は、見知らぬ土地の小さな借家で、近所の工場に勤めていた。 「悔しくなかったの」と梅小路惇が聞いたのは、小学校に上がる前のことだった。  祖父は少し考えてか...

忘却の閾値 27.05.2026

noteでも公開しています 忘却の閾値  脳とAIを繋ぐ、物理的な方法は解決した。  あとはソフトウェアの問題だけだ。田村博士は椅子にもたれて、天井を見た。考えはすでに動き始めていた。  一つの方向性として、思考力と暗記力の強化がある。考えるスピードを上げ、メモなしで複雑な問題を展開し続けられるようにする。将棋の棋士が数十手先を頭の中で読むように、日常のあらゆる場面でそれができるようになる。一度見たこと、考...

凪の道 27.05.2026

noteでも公開しています # 凪の道  家の前の道路が舗装し直された。  工事自体はよくある話だ。うるさいな、と思いながら仕事をして、終わればそれで忘れる。今までそうだった。でも今回は、終わってから気になった。  仕上がりが、きれいだった。  アスファルトが植木鉢の際までしっかり収まっている。段差をなくすための三角の板も、ちゃんと動かして、その下まで舗装してある。以前の工事では、そういうものを避けて、周り...

加速器の落書き 25.05.2026

noteでも公開しています 加速器の落書き  国家プロジェクトの完成式典から三週間後、最初の異常が検出された。  データ解析室のモニターに映し出された散乱断面積のグラフを見て、田島主任研究員は眉をひそめた。ピークがわずかにずれている。許容誤差の範囲内ではあったが、気になった。 「検出器の較正をやり直せ」  田島の声に、周囲の若手研究員たちは黙って作業に戻った。  田島俊一、五十四歳。この加速器プロジェクトの...

事象の地平面 25.05.2026

noteでも公開しています 事象の地平面  西暦二二一七年。人類がはじめてブラックホール近傍への有人探査を試みてから、すでに三十年が経っていた。  田所は操縦席に背を預け、計器の数字を眺めていた。見るまでもない。船は正確に、取り返しのつかない方向へ進んでいる。  エンジンは生きている。燃料も残っている。しかし脱出軌道へ戻るには、今の推力では話にならない。超大質量ブラックホール「NGC4889-A」の重力は、すでに...

両方 25.05.2026

noteでも公開しています # 両方  コーヒーかティーか、と聞かれたとき、両方とも、と答えてはいけない空気がある。  なぜだろう、と男は思った。論理的には、orは両方を含む。AまたはBは、AもBも真である場合を排除しない。両方ともが駄目なのであれば、それは排他的論理和、XORの話であって、最初からそう言ってもらわないと困る。  もちろん、そんなことはわかっている。日常会話にXORを持ち込む人間はいない。ただの言葉遊び...

本当に残酷な話だ 25.05.2026

noteでも公開しています 本当に残酷な話だ 本当に残酷な話だ。 娘は空港からまっすぐ実家に来た。 一年ぶりに会う親への挨拶もそこそこに、ワンコに駆け寄った。ワンコも一目散に娘の元へ走った。尻尾が千切れそうなほど振られている。全身で喜びを表現している。 感動の再会なのだろう。しかしこちらはしらけてしまう。この一年、ほとんど毎日散歩に連れて行ったのに。 所詮はじーじだ。そんなものなのかと思うと寂しい。 それで...

Listen to the 余白の朗読室 podcast in Replaio

Radio and podcasts in one app - free, with no sign-up. Install today and do not miss the launch

Get it on Google Play

Replaio is not a podcast publisher; show names, artwork and audio belong to their authors and are distributed through public RSS feeds.