tosusia

余白の朗読室

Fiction JA ↓ 92 episodes

短編小説を朗読し、その余韻を少しだけ言葉にする番組です。AI、記憶、家族、創作、老い、別れ、そして人の心に残る小さな違和感を題材にした物語を扱います。noteで公開している短編をもとに、朗読版や解説付き音声を配信します。読み終えたあとに少し考えたくなる、静かで不思議な物語をお届けします。

Author

tosusia

Category

Fiction

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Jul 8, 2026

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Episodes

いけず 24.05.2026

noteでも公開しています # いけず  いけず石のことを知ったのは、つい最近のことだ。  四十年以上、当たり前にそこにあった。民家の角の丸い石。子供の頃、自転車で角を曲がるたびに横目で見ていた。特に気にしたこともなかった。名前があることも、意味があることも、知らなかった。  知ってから、街を歩くと見え方が変わった。  あの石は「入ってくるな」という意思表示だったのか。犬矢来の竹の柵も、表向きは犬よけだが、...

八百長 24.05.2026

noteでも公開しています # 八百長  二人は月に一度、決まった居酒屋で飲む。  中村と、田所だ。大学の同期で、今は互いに別々の研究室を持つ。専門は違うが、話は合う。正確に言えば、意見は合わないが、議論は合う。それが二十年続いている。  その夜、中村がビールを一口飲んでから言った。 「最近の経済競争、あれは八百長だと思う」  田所は枝豆を口に入れながら、「ほう」と言った。 --- 「AIの開発競争を見ていると、表...

隠蔽論 23.05.2026

noteでも投稿しています # 隠蔽論  問題は、どこに隠すか、ではなかった。  桐島蓮、十七歳は、勉強机の前で腕を組んでいた。部屋のドアには鍵がある。タンスの奥には、それなりに工夫を凝らした場所がある。客観的に見て、鉄壁だった。  なのに、なぜこんなに不安なのか。  考え始めたのは、昨夜のことだった。母親がノックもなく部屋に入ってきて、「洗濯物」と言いながらそのタンスを開けた。あの瞬間、蓮は悟った。鍵も工...

最大公約数 23.05.2026

noteでも公開しています 最大公約数 echoを使い始めたのは、部下の田中に勧められたからだった。 最近流行っているらしいですよ、と田中は言った。SNSや写真から自動で日記を作ってくれて、AIが文章を補いながら育てていく仕組みだと。忙しい人にちょうどいいと思いまして、と付け加えた。確かに、少し余裕が出てきた頃だった。 最初に生成された日記を読んで、首を傾げた。 的外れな記述が続いた。家内に嫌な思いをさせてしまって...

赤色光 23.05.2026

noteでも公開しています # 赤色光  小学生の頃、音楽の授業で和音の説明を受けたとき、田所はどうしても納得できなかった。  先生はピアノで三つの音を鳴らして言った。「こっちは綺麗ですね。こっちは濁った感じがしますね」。クラスの全員が頷いていた。田所だけが首を傾けていた。綺麗か汚いかなど主観の問題ではないか。他人に決めてもらうものではないはずだ。でも手を挙げてそう言える空気でもなかったので、黙っていた。...

夢の棲家 22.05.2026

noteでも公開しています # 夢の棲家 その夜、加藤誠一は画面の中に引き込まれた。 比喩ではない。少なくとも、彼にはそう感じられた。 --- 四十一歳、地方銀行の融資課長。妻と子供二人、郊外の一戸建て。誰がどう見ても堅実な人生だった。加藤自身も、そう思っていた。思うようにしていた、と言うべきかもしれないが、その区別を考えないようにして十数年が経っていた。 大学三年の秋、加藤は映画監督になりたかった。自主製作の...

不毛 21.05.2026

noteでも公開しています # 不毛  知性とは何だろう、とふと思った。  深夜のことだった。あたりが静かで、世界が少し遠く感じられる時間帯だった。こういう時間に限って、どうでもいいことが頭から離れなくなる。  きっかけは些細なことだった。誰かと長い話をした後、その会話の余韻の中でふとした問いが浮かんだ。AIは知性を持つか、という問いだ。よくある問いだ。でもその夜は、なぜか自分のこととして考えてみる気になった...

記憶喪失 21.05.2026

noteで全文を公開しています

残酷な話だ 21.05.2026

noteでも公開しています 残酷な話だ とても残酷な話だ。 定年後、これほどの仕打ちを受けることになるとは思っていなかった。 海外赴任中の娘が、半年後に帰国する。 それだけなら喜ばしい話だ。しかし娘は帰国と同時に、「うちの子を返してもらう」と言っている。 確かに預かったのだ。一年間という約束で。だから返すのが筋だということは、頭ではわかっている。 しかし一年とは何だ。 毎朝、リードを持つと玄関で待ち構えている...

流星群 20.05.2026

noteでも投稿しています 流星群  三十四歳、独身、趣味はプログラミング。田村誠という男は、ある夜、ニュースを見ながら思った。  これはチャンスではないか。  ニュースが伝えていたのは、数十年に一度地球に接近する流星群のことだった。流れ星に願いを唱えると叶う、という話は田村も知っていた。子供の頃から知っていた。ただ一度も試したことがなかった。気づいたときには流れ星は消えていたし、そもそも夜空をぼんやり眺...

最後のピース 19.05.2026

noteでも公開しています # 最後のピース  森田には、画家に必要なものがすべて揃っていた。ただひとつを除いて。  絵を見る目があった。美術館で作品の前に立つと、他の人が素通りしていくものに足が止まった。あの絵のここがすごい、あの構図の意味はこうだ、そういうことが自然にわかった。感性もあった。夕暮れの光の色、雨上がりの路地の匂い、人混みの中でふと感じる孤独——そういうものを言葉にする力があった。画家になる...

娘の声 19.05.2026

noteでも公開しています # 娘の声 ## 一 山田正人が妻の敦子に「ミライ」のことを話したのは、事故から二年が経った秋のことだった。 娘の菜々子が死んだのは、二十三歳の春だった。桜が散りかけた夕方に、二人は病院にいた。最後の息を聞いた。手が冷たくなっていくのを感じた。だから間違いない。菜々子はいない。 それでも正人は、会社の同僚から「グリーフ・コンパニオン」のことを聞いたとき、断れなかった。 「記録を入力す...

千年の愚痴 19.05.2026

noteでも公開しています # 千年の愚痴  木曜の昼休み、田中は会社を抜け出して烏丸通りを歩いていた。特に目的はなかった。ただ少し、デスクから離れたかった。午前中だけで上司からのメールが十七通来ていた。全部、同じ内容の言い直しだった。  路地の角に、小さな石碑があった。田中は立ち止まった。こういうものを見つけるのが、京都に住む数少ない楽しみのひとつだった。  碑文を読んだ。 ---  平安中期、藤原某の邸宅跡...

人類の午後 19.05.2026

noteでも公開しています # 人類の午後  朝、目が覚めても、急いで支度をする必要はない。  その事実に慣れるまで、半年かかった。  真壁遼、四十二歳。かつては中堅の広告代理店で働いていた。締め切りと上司の顔色と、どこかの誰かの購買意欲のために、十数年を費やした。今、その会社の建物はある。ただ中で動いているのは、静かに光るサーバー群と、足音のしないヒューマノイド数体だけだ。  遼が最後に出社した日、誰も泣...

完全な若さ 19.05.2026

noteでも公開しています # 完全な若さ  博士が薬を完成させたのは、七十二歳の誕生日の朝だった。  三十年かけて作った。膝が笑う階段を毎日上りながら、老眼鏡を三回買い替えながら、白衣のボタンがどんどん閉まらなくなっていくのを感じながら、作り続けた。そしてついに、できた。  透明な液体が、小さなビーカーの中で静かに揺れていた。 ---  効果は実証済みだった。  マウスで試したとき、老いたマウスが三週間で若返っ...

喧騒の中で 01.05.2026

noteでも公開しています 喧騒の中で  平日の午後だというのに、錦市場は人で溢れていた。  聞こえてくるのは英語、中国語、韓国語、そしてたまに日本語。村田信夫は人の流れに押されながら、ゆっくりと通りを歩いていた。かつてここは「京都の台所」と呼ばれ、少なくとも信夫の記憶では、地元の主婦が豆腐や漬物を買い求める場所だった。それがいつの間にか、こうなった。  道にはみ出して串を頬張る外国人観光客。狭い通路を塞...

まっすぐ 30.04.2026

noteでも公開しています まっすぐ 子供の頃、信号には二種類しかないと思っていた。東西方向と南北方向。全国の信号が、そのふたつのタイミングで切り替わると、疑いもせず信じていた。三叉路と言われてもピンとこなかったし、五叉路などというものは想像すらできなかった。道は直角に交わるものだと思っていたから、そもそも三本や五本が一点で交わる絵が、頭の中に浮かばなかった。 京都で育った。街は碁盤の目になっている。ど...

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