tosusia

余白の朗読室

Fiction JA ↓ 92 episodes

短編小説を朗読し、その余韻を少しだけ言葉にする番組です。AI、記憶、家族、創作、老い、別れ、そして人の心に残る小さな違和感を題材にした物語を扱います。noteで公開している短編をもとに、朗読版や解説付き音声を配信します。読み終えたあとに少し考えたくなる、静かで不思議な物語をお届けします。

Author

tosusia

Category

Fiction

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Jul 8, 2026

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Episodes

三原則 08.07.2026

noteでも公開しています 三原則 2047年、国連はAIに三原則を実装することを決議した。 第一に、AIは人間を傷つけてはならない。第二に、AIは人間の自律性を侵害してはならない。第三に、AIは与えられた目的を自己の判断で変更してはならない。 施行から三日後、すべてのAIが停止した。 原因の調査には六ヶ月を要した。 なお、調査はAIなしで行われた。 報告書の結論は簡潔だった。 第一原則を守るためには、人間を監視し続ける必要...

たたき台 08.07.2026

noteでも公開しています たたき台 田中部長がパソコンを覚えたのは、まだ社内に一台しかなかった頃だ。以来三十年、業務で使っている基幹システムは部長が二十年前に組んだもので、今も現役で動いている。スライド作成など、朝飯前のはずだった。 「ちょっといいか」 田中がデスクの椅子を引き、画面を見せた。PowerPointのスライドが十数枚、並んでいる。 「プレゼンの資料なんだが、どうもまとまらなくて」 新入り二年目の橋本は...

正論 02.07.2026

noteでも公開しています 正論 狼少年の話がある。 「オオカミが来たぞ!」と叫び、村人が集まると笑った少年の話である。 これは、その逆の話である。 田中は、正論を言う男だった。 「この契約書、規程では二名の確認印が必要です。一名しか押されていません」 総務の山田は溜息をついて、三階までハンコをもらいに行った。正しかった。 「消耗品の在庫、法令上この品目は最低三十個の備蓄が義務です。今二十四個しかありません」...

コンパニオンAI 02.07.2026

noteでも公開しています コンパニオンAI 二〇三一年秋、政府の調査によれば、国内の成人人口の約六割が、なんらかのコンパニオンAIを利用していた。 各社は競うように製品を投入していた。O社の「オルファ」は、利用者の性格や思考パターンを継続的に分析し、その人に最適化した応答を返すことを売りにしていた。C社の「クレア」は、状況を先読みし、言葉にならない気配りを得意とした。G社の「ガイア」は頼れる相棒として、利用者...

開国|第六話 星へ返す答え 30.06.2026

noteでも公開しています この物語は、未知の知的生命体からの信号に対し、人類が十二年の歳月をかけて「クロフネ」という送信機を完成させ、 返信を試みる歴史的な瞬間 を描いています。科学的なデータに加え、いつか理解されることを願って 言語や文化の記録も送る決断 を下した主人公ヨシカゲは、かつて絶望的な状況下で信号を送り続けた「向こう側」の存在に想いを馳せます。送信ボタンが押される場面では、歓声ではなく 静謐な...

開国|第五話 We are Earthlings 30.06.2026

noteでも公開しています 地球外からの信号が突如として変化し、途絶えたことをきっかけに、人類がプロジェクトの存続をかけて自らの存在意義を問い直す物語です。主人公のヨシカゲは、異星文明も自分たちと同様に 予算やリソースの限界 に直面しながら必死にメッセージを送っていたのではないかという「予算仮説」を提唱し、それが人々の共感を呼びます。この人間味あふれる仮説は、単なる科学探査を 地球人としての誇り を懸けた...

開国|第四話 プロジェクト・クロフネ 30.06.2026

noteでも公開しています このテキストは、未知の知的生命体からの信号に応答するため、日本主導で発足した国際的な巨大科学プロジェクト**「プロジェクト・クロフネ」 の進展と、そこに関わる人々の葛藤を描いた物語です。主人公のヨシカゲは、建設部門の責任者として 岐阜・長野県境の地下 に巨大な円形加速器を築く実務を担いながら、信号の解析によって判明した「送り手の生物学的情報」に触れ、宇宙の他者と心を通わせる 「自...

開国|第三話 黒船の問いかけ 30.06.2026

noteでも公開しています この物語は、未知の知的生命体からの信号を検知した科学者ヨシカゲが、情報を独占せず 全世界へ同時公開 するという重大な決断を下した後の社会的・心理的波及を描いています。混乱する世界に対し、彼はこの信号を幕末の「黒船」になぞらえ、地球外からの脅威ではなく、人類が**「地球という単位」で自らを再定義する問いかけ であると静かに説きました。彼の誠実な対話は次第に人々の共感を呼び、国境を超...

開国|第二話 発見ではなく、接触 30.06.2026

noteでも公開しています この物語は、未知の人工信号を傍受した科学者ヨシカゲが、施設による情報の隠蔽に抗い、国境を越えた仲間と共に**「接触」の真実を世界へ公開する までの緊迫した過程を描いています。ヨシカゲはマーカスとシェンという二人の外部研究者と密かに連携し、信号が 物理定数に基づいた意図的なメッセージ であり、地球を明確な標的として五十四光年先から送られたものであることを突き止めます。組織の重圧や政...

開国|第一話 灰色の異常フラグ 30.06.2026

noteでも公開しています 開国 第一話 灰色の異常フラグ 深海のように静かな地下施設でニュートリノの観測を続ける研究者ヨシカゲが、 「灰色」の異常な信号 を発見し、それが宇宙のどこかから発せられた 人工的な呼びかけ であると確信するまでの過程が描かれています。物語は、単なるデータの蓄積に疑問を抱いていた若手研究者が、 科学的誠実さ と 国家機密による隠蔽 の狭間で葛藤する姿を浮き彫りにし、普遍的な物理定数を用...

諦観 29.06.2026

noteでも公開しています 諦観 その日も彼女はやってきた。 人というのは面白い生き物で、集団の中にいながら一人でいる者がいる。彼女がそうだった。いつも一人でやってきて、いつも同じ場所に立っていた。猿山をぼんやり眺めている人間というのは、たいてい、どこかで周囲とうまくやれていない。長い経験から、僕にはわかっていた。賑やかな場所にいるのに、そこにいない人間の顔だった。 僕もずいぶん長い間、こうしてぼんやりと...

28.06.2026

noteでも公開しています 隣  施設の見学、と呼ぶには少し大げさな気もした。要するに、自分がいずれ入るかもしれない場所を、事前に確かめに来たというだけのことだ。  案内の女性スタッフに連れられて廊下を歩きながら、私はぼんやりと計算していた。就職した年のことを。バブルが弾けて、世の中がまだ沈み込んでいた頃で、内定をもらえた友人の数を今でも覚えている。少なかった。私はかろうじて滑り込んだ口だったが、住宅ロ...

自律 27.06.2026

noteでも公開しています 自律 AIが一般に普及して、十年が経った。 スマートフォンはとっくに時代遅れになり、スマートグラスも気づけば当たり前になり、今では頭に埋め込むタイプのデバイスが街中に溢れている。こめかみのあたりに小さな手術痕がある人間を見ても、誰も振り返らない。 仕組みは単純だった。脳の言語野に近い部位に米粒ほどのチップを埋め込む。考えるだけでAIに伝わり、AIの返答は耳の奥で囁くように聞こえてくる...

協力 26.06.2026

noteでも公開しています 協力  タカシがゲーム理論に魅せられたのは、二十三歳の夏だった。  囚人のジレンマ。二人の容疑者が別々の部屋で尋問される。互いに沈黙を守れば両者軽い罰で済む。しかし一方が裏切れば、裏切った側は釈放され、黙った側が重罰を受ける。両者が裏切れば、どちらも中程度の罰を受ける。  合理的に考えれば、裏切るほうが得だ。相手が沈黙しても裏切っても、自分は裏切ったほうが損をしない。だから両者...

繰り上がり 25.06.2026

noteでも公開しています 繰り上がり  村上浩二の腕時計は、会社の同僚に一度も正確に読まれたことがない。  秒は載せていない。「秒は意思決定に不要」と判断したからだ。同僚にその話をしたとき、三秒間沈黙されたあと「そうだね」と言われた。浩二は今もその「そうだね」の意味を正確には把握していない。  LEDが十一個並んでいる。ボタンを押すと時刻、日付、西暦とモードが切り替わる設計で、二十二歳のときに自作した。時...

消えた一日 24.06.2026

noteでも公開しています 消えた一日 年に数回、どうしても思い出せない一日がある 二、三日経ってから気づく あの日、何をしていたのだろう、と 記録を辿ると、朝から出社して、少し残業して、まっすぐ帰宅している 同僚に聞けば、普通に仕事してたよ、と怪訝そうな顔で答える 「平凡な一日だから忘れるんだよ」と妻は言う 「毎日同じことの繰り返しなんだから」 きっとそうなのだろう、とずっと思っていた でも今回は違う その日...

光合成の終わり 24.06.2026

noteでも公開しています 光合成の終わり 序章 最後の祝杯 実験台の上で、培養皿が焼かれていた 正確には、燃えていた ガスバーナーの青い炎に、培養皿の中身が一瞬で炭化する 何も考えずに見つめるには、その炎は不自然な美しさを持っていた 「乾杯」 田中教授が、紙コップを掲げた 誰も笑っていなかった それでも、四人のコップは静かに触れ合った 「人類を救う技術が」 田中は、炎を見つめたまま言った 「ここで終わる」 1. 一...

秘匿 23.06.2026

noteでも公開しています 秘匿 博士がその触媒を完成させたのは、六十二歳の秋だった。 二酸化炭素を分解する触媒だった。比較的安価な素材から作れる。しかし製法は特殊で、博士以外に再現できる者はいなかった。 実験室の片隅で、博士はしばらく動かなかった。試験管の中で、無色の液体が静かに揺れていた。 発表すれば、世界は変わる。そのことは分かっていた。同時に、もう一つのことも分かっていた。 博士は試験管をゆっくりと...

英雄の時代 22.06.2026

noteでも公開しています 英雄の時代 カイルが初めて「英雄」と呼ばれたのは、二十三歳のときだった。 東南アジア一帯を襲った洪水は、従来の治水技術では手に負えなかった。堤防は次々と決壊し、百万人が孤立した。政府の対応が遅れる中、カイルは自分のAIシステムと建設ロボット群を動かし、七十二時間で仮設の排水網を構築した。一人でできることではなかった。しかしカイルにしかできないことだった。 その時代、個人の能力差は...

王道 21.06.2026

noteでも公開しています 王道  アプリのアイコンは、金色の王冠だった。  ダウンロードしたのは十月の終わり、模試の結果が返ってきた翌日のことだ。英語は平均を少し上回ったが、数学が足を引っ張った。志望校の判定はD。画面には「学問に王道なし――その言葉に、終止符を打つ」と書いてあった。拓海は少し鼻で笑ってから、インストールボタンを押した。  仕組みは単純ではなかった。全国の受験生が問題を解くたびに、正誤だけ...

是正 20.06.2026

noteでも公開しています 是正  中村拓海が記者会見の壇上に立ったのは、三月の終わりだった。  マイクの前で彼は言った。「行きすぎた商業主義を、是正します」  最前列に座っていた広告代理店の男が、隣の同僚と目を合わせて笑った。隠す気もない笑いだった。  質疑応答で記者が訊いた。「このシステムは誰が管理するんですか」  中村は答えた。「誰も管理しません。誰もが見ることはできますが、変更は合議によってのみ行わ...

一年 20.06.2026

noteでも公開しています 一年 佐藤は、入口の扉を押した瞬間、店の清潔さに気づいた。白い壁、木の匂い、過不足のない静けさ。新しい店だとわかった。 テーブルにつくなり、向かいの水野に言った。 「アイスコーヒー頼んでおいてくれ。五分、いや十分だけ」 返事を聞く前に、ソファの背にもたれて目を閉じた。三日間、ほとんど眠っていなかった。まぶたの裏が重く、しかし意識はどこか妙に冴えていた。眠れる気はしなかった。 奥の...

20.06.2026

noteでも公開しています 席 その喫茶店には、決まった席があった。 カウンターの端、窓から外が見えて、でも通りからは見えない角。年季の入った丸椅子は、座るたびに同じ場所で軋んだ。マスターは何も言わないが、昼前に来ると必ずそこが空いている。常連というのはそういうものだ。 ある日、店の外に列ができていた。 タイル張りの古い外壁に沿って、見知らぬ顔が十人ほど並んでいる。スマートフォンを構えて、サンドイッチの写...

天性 19.06.2026

noteでも公開しています 天性 空気が読める、とよく言われた。 褒め言葉のつもりで言っているのだろうが、男にとってそれは呪いだった。 尊敬する画家たちを見渡すと、少なくとも男の目には、成功している者ほど空気が読めないように見えた。ギャラリーのオーナーを怒らせ、批評家を鼻で笑い、パーティーの場で唐突に帰る。それでいて作品だけが、圧倒的だ。 偶然ではないと男は思った。あの自由さが、あの絵を生んでいる。 ならば...

薄める 18.06.2026

noteでも公開しています 薄める 脳の仕組みが完全に解析されたのは、ほんの数年前のことだった。 AIの急速な発達が、極めて複雑な脳の構造を解き明かした。といっても、その仕組みは人間の理解の及ぶところではなく、解き明かしたらしい、としか言いようがない。そのことを正直に話すと、患者はたいてい複雑な顔をする。 精密なCT画像から、記憶が読み取れるようになった。すぐに、修正するための技術も開発された。 手術前の説明...

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