闇と鮒

オーディオドラマ「五の線3」

Fiction JA ↓ 100 episodes

【一話からお聴きになるには】 http://gonosen3.seesaa.net/index-2.html からどうぞ。 「五の線」の人間関係性による事件。それは鍋島の死によって幕を閉じた。 それから間もなくして都心で不可解な事件が多発する。 物語の舞台は「五の線2」の物語から6年後の日本。 ある日、金沢犀川沿いで爆発事件が発生する。ホームレスが自爆テロを行ったようだとSNSを介して人々に伝わる。しかしそれはデマだった。事件の数時間前に現場を通りかかったのは椎名賢明(しいな まさあき)。彼のパ

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闇と鮒

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Fiction

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Oct 4, 2025

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Episodes

210 最終話「五の線」 04.10.2025

3-200.mp3古田が亡くなって、まもなくひと月が経とうとしていた。午後の陽が差し込む駅近く。木造二階建てのアパートの前に、森はひとり立っていた。引き渡しは今日。部屋の中に残っていた遺品は、すでに古田の娘がすべて引き取っていった。小さな郵便受けの名札には、まだ「フルタ」の名前が貼られたままだった。ドアの前で、森は立ち止まり、そっと呟いた。「……トシさん」その声は風にさらわれ、誰の耳にも届くことはなかった。...

210.1 ご挨拶 04.10.2025

3-200-1.mp3

210 第199話「沈黙を編む手」 03.10.2025

3-199.mp3音楽堂の裏手――濁流がかすめた低地に、まだ泥の匂いが残っていた。京子は、崩れた階段の縁に腰を下ろしていた。脚には乾きかけた泥がつき、掌には黒いスマートフォンが握られている。画面は割れていたが、電源は入る。その端末は、相馬の遺品だった。押収されていたその携帯が、自分のもとに戻ってきたのは、ほんの数十分前のことだ。ーーー背後に気配を感じた。振り返らなくても、足音で誰かは分かった。「……冷えるな。...

209 第198話「水の檻」 19.09.2025

3-198.mp3雨は弱まる気配を見せず、泥水はゆっくりと、だが確実に音楽堂の階段を飲み込もうとしていた。仁川征爾と片倉。その間に流れていたのは、ただの水ではない。泥濘に沈んだ死者たちの重みと、ぶつけられることのなかった問い、語られなかった復讐。睨み合う両者の呼吸だけが、時の進行を遅らせていた。拳銃にかけた手が、片倉の腰で静かに止まっている。仁川の指も、拳銃のグリップから外れない。――張り詰めた均衡。だが。...

208.2 第197話「濡れた獣」【後編】 05.09.2025

3-197-2.mp3濁流が足首から脛へと水位を上げる中、音楽堂の前では自衛隊と消防、警察機動隊による救助活動が次の段階へと入ろうとしていた。避難者の大半は地上へと搬出されつつあり、ゴムボートは最後の巡回に入り、担架も尽きかけていた。誰も気づかない、雨の帳の奥――濡れた舗道の向こうから、一つの影が水を踏んで歩いてきていた。ざぶ……ざぶ……それは“ゆっくり”だった。焦る様子はない。疲労の色も、躊躇もない。ただ、決定さ...

208.1 第197話「濡れた獣」【前編】 05.09.2025

3-197-1.mp3一発の狙撃が、戦場の均衡を崩した。プリマコフ中佐の体が膝をつき、泥濘に崩れ落ちたその瞬間、まるで濁った水の上に立つ紙の塔のように、人民軍部隊の指揮系統は一気に瓦解した。ドームの骨格だった鉄骨の影から、散開していたツヴァイスタン兵たちが一斉に動きを止めた。彼らが見ていたのは、倒れた男の背ではない。崩れた「秩序」そのものだった。一人、また一人と銃を捨てる音が聞こえる。命令は来ない。誰が敵で...

207.2 第196話「還るもの」【後編】 22.08.2025

3-196-2.mp3(……来たのか)椎名の胸の奥で、何かが軋むように揺れた。(……来るべきじゃなかった。)ボストークで、ちゃんフリで、軽く冗談を挟みながら、過剰な距離も取らずに接してきた彼女。女でもなく、敵でもなく、“ただの相棒”として、淡々と接してくれた存在。(……お前は俺を“人間”として扱ってくれたっけ…)濁った水音の中で、椎名の視線が、京子から離れなかった。一歩前に踏み出した彼女の姿が、波紋を生んだ泥濘に揺れる...

207.1 第196話「還るもの」【前編】 22.08.2025

3-196-1.mp3水位が足首を超えた。金沢駅東口へと続く歩道は、すでに道路の面影をなくしていた。下水は逆流し、泥と瓦礫が浮遊し、ゴミ袋と共に正体不明の有機物がぷかぷかと水面を漂っていた。普段なら観光客や通勤客でごった返していた広場は、まるで水底に沈んだ空虚な箱庭のようだった。片倉京子は、足を止めた。深く、ひと呼吸。ザバ……と脛が水面を割る。振り返る者など誰もいない。あたり一帯は緊急安全確保措置で封鎖され、...

206.2 第195話「生者の義務」【後編】 08.08.2025

3-195-2.mp3大型のモニター群には、浅野川流域の濁流、金沢駅東口の冠水、そして各部隊の無線通話ログが並んでいた。警報の断続音のなかで、状況監視班のオペレーターたちは端末に次々と入力を走らせていた。その中央――防衛班長・佐藤陸将補が、報告書類を片手に首を上げる。「金沢駅周辺、第14普通科連隊・川島一佐からの現地報告。人民軍の指揮系統は既に崩壊。武装集団の戦力も散発的。現在、戦術目標の終了とともに、音楽堂地...

206.1 第195話「生者の義務」【前編】 08.08.2025

3-195-1.mp3豪雨は容赦なく降り続き、金沢駅東口広場はまるで沈みゆく盆地のように水が溜まり始めていた。もてなしドームの残骸が打ち捨てられ、プリマコフ中佐率いる人民軍部隊は、破壊されたオフィスビルの軒下に展開していた。黒木為朝特殊作戦群群長は、防弾ベストの上から無線を握った。濡れた戦闘服から水が滴る。冷たい雨は、もはや兵士たちの動きすら鈍らせていた。「――群長、プリマコフ中佐の位置確認」「距離420。座標は...

205.1 第194話「豪雨接敵」【前編】 25.07.2025

3-194-1.mp3静寂が包む一角で、椎名は唐突に顔をこわばらせた。瞳はどこか遠くを見ていた。濡れたビルの廃材も、崩れかけた天井も目に入っていない。いや、見えているのに、意識はそこにはなかった。その視線の先にあったのは、己の掌に収まる黒い端末。突如、ビリビリと震え、けたたましい電子音を響かせる。──テロテロリーンテロテロリーン──反射的に全員が動いた。椎名は身を強ばらせ、吉川は銃口を構え直し、黒田は一歩下がっ...

205.2 第194話「豪雨接敵」【後編】 24.07.2025

3-194-2.mp3金沢駅構内。アルミヤプラボスディア残党は特殊作戦群によってすでに追い詰められていた。黒い戦闘服に身を包んだ特殊作戦群の隊員が、サイレンサー付き短機関銃を携え、柱の陰から一人、また一人と狙撃していく。音は小さい。しかし命の消える音だった。「クリア!」報告が飛び交う。その瞬間、ガラスの破片とともに複数の閃光弾(フラッシュバン)が投げ込まれた。プリマコフ部隊だ。「伏せろ!!」轟音と閃光。一瞬...

204 第193話「名を呼ぶ者達」 11.07.2025

3-193.mp3バックヤードの暗がりに身を潜めていた椎名の耳に、かすかな破裂音が届いた。──パンッ。静寂を切り裂く、たった一発の乾いた銃声だった。(……今のは)椎名は天井に打ちつける雨音と混じる微細な音を聞き逃さなかった。通常の撃ち合いなら連続した発砲音があるはず。しかし、これは単発。それも**明らかに“遅れた一発”**だった。(……接近戦……?)一瞬、脳裏に浮かんだのは二人の男の影。勇二とヤドルチェンコ。どちらも死...

203.2 第192話「命令線」【後編】 27.06.2025

3-192-2.mp3その頃、金沢市郊外に設置された第14普通科連隊臨時戦術指揮所。 川島一佐は通信卓の前で、剛直な男の顔をモニター越しに見つめていた。「黒木群長。機動隊の撤収は完了したとの確認が取れた。」画面の向こう、黒木為朝1等陸佐――特殊作戦群群長は、短くうなずいた。 口元には無駄な言葉が浮かばない。端的な一礼だけが彼の返答だった。川島とは防衛大学校時代の同期。互いの才覚と癖を知り尽くしている間柄だった。 だ...

203.1 第192話「命令線」【前編】 27.06.2025

3-192-1.mp3時刻は18時半をまわっていた。金沢駅構内で銃撃が始まってから、わずか一時間余りしか経っていない。それにもかかわらず、公安特課の指揮所はすでに機能不全に陥っていた。屋内照明は最低限の明るさを保っていたが、それが逆に空間をくすませ、陰影を濃くしていた。室内は静まり返っており、誰一人として声を上げない。キーボードの打鍵音も止まっていた。室内中央――長机の前で、片倉がぼんやりと立ち尽くしている。か...

202 第191話「死者の眼」 13.06.2025

3-191.mp3――銃声が、響いた。その一発で、すべてが終わったと、誰もが思った。だが、それは、始まりに過ぎなかった。---瓦礫の隙間。崩れた鉄骨の陰から、黒く濡れたコンクリの地面に赤い滴が広がっていく。勇二は膝をついていた。視界がゆらぎ、息がうまく吸えない。「……あ……?」指先が、胸に添えられていた。だがそこには、鋼板の感触ではなく、熱と柔らかな液体――血があった。撃たれたのは自分だ。理解に数秒かかった。正面には...

201.2 第190話「記憶と濁流」【後編】 29.05.2025

3-190-2.mp3駅前ロータリーは、黒い水に沈んでいた。空からは、まるで恨みでも込めたような雨が断続なく叩きつけてくる。アスファルトに打ちつけられる粒は、もはや雨音というには激しすぎ、まるで砕けた硝子の雨のようだった。勇二は傘も差さず、その中に立っていた。髪から雫が伝い、首筋を這う。視界の前には、火災の名残を濃く漂わせる黒煙が、雨によって引き裂かれ、地表に押し込められていた。駅舎の外壁には消火後の焼け跡...

201.1 第190話「記憶と濁流」【前編】 29.05.2025

3-190-1.mp3廃墟となったコーヒーチェーン店の裏手、崩れた冷蔵什器の陰で椎名はじっと雨音に耳を澄ませていた。雨がコンクリートを叩き、遠くで崩れ落ちた什器が金属音を鳴らす。焦げた臭い、土と鉄の匂いが鼻を突き、胸に広がる。彼はふと目を閉じ、静かに記憶をたぐった。土の匂い、鉄の味、そして水の音――椎名の脳裏には、20年前の記憶が容赦なく押し寄せていた。近畿地方の山奥。仁川征爾が高校の写真部として泊まっていた山...

200 第189話「追撃開始」 16.05.2025

3-189.mp3瓦礫の山が散乱し、破れた天井から滴る雨が打ちつける――焦げた金属の匂い、湿った埃の匂い、濃密な死と破壊の残滓が入り混じるその空間を、吉川と黒田は慎重に進んでいた。踏みしめるたびに砕けたガラスが軋み、ぬかるんだ床が靴底に重く絡みつく。外から漏れ込む薄い光が、崩れた什器の隙間をぼんやりと照らし、無人のはずの空間に幻のような影を落とす。吉川は銃をわずかに前に構え、黒田は唇を噛みしめながらその背を...

199.2 第188話「瓦礫の中、未だ立つ」【後編】 02.05.2025

3-188-2.mp3廃墟を目の前にしたこの空間には、冷たい雨音が微かに反響していた。瓦礫を避けながら慎重に進む吉川の視線は、常に周囲を警戒している。「椎名はまだこの空間にいるんでしょうか。」吉川は小さく呟いた。「ここは包囲されている。仮に逃げ出すとしても、音も立てずにこの状況を脱するなんて無理だ。どこかで奴の痕跡が出る。」だが、まだ何の報告もない。それはつまり、椎名はこの封鎖された現場のどこかに潜んでいる...

199.1 第188話「瓦礫の中、未だ立つ」【前編】 02.05.2025

3-188-1.mp3勇二との連絡を終えた椎名は商業ビルの瓦礫の中で、一息ついた。ヤドルチェンコの始末は勇二に託した。さてここから自分が取る行動は…と考えようとしたとき、かつての百目鬼とのやり取りを思い出した。「ああそうだ。このテロ対でアナスタシアという言葉を知っているのは俺だけだ。だから案ずるな。」「アナスタシアがどうしたんですか。」「…。」「公安特課はアナスタシアのどこまでを知っているんですか。」「それは...

198.2 第187話【後編】 14.02.2025

3-187-2.mp3瓦礫が散乱し、崩壊したフロアの中にもかかわらず、アパレルショップのディスプレイが無残に残っていた。その中に、ミリタリーショップが偶然にもあった。椎名はその店内で服を物色し、迷彩服を手に取った。雨に濡れたシャツを脱ぎ捨て、軍人らしい出で立ちに着替えていく。鏡に映る自分の姿をじっと見つめる。その姿はまさに彼の本質――戦場に生きる者そのものだった。「やはり、しっくりくるな。」彼はふと何かを思い...

198.1 第187話【前編】 14.02.2025

3-187-1.mp3相馬からの報告がないまま、時間だけが過ぎていた。テロ対策本部の室内は、重苦しい空気に包まれていた。誰も言葉を発さず、机上の時計の秒針がやけに耳に響く。「こちらSAT。テロ対策本部ですか。」突然、無線から声が響いた。岡田は反射的に無線機を手に取った。「こちらテロ対策本部だ。そちらは?」「SATの吉川です。自衛隊から応援に入っています。」その名を聞き、岡田は瞬時に思い出した。相馬から自衛隊特務2名...

197.2 186話【後編】 31.01.2025

3-186-2.mp3雨音の中、椎名は低い声を出した。「トゥマンの状況は。」電話の向こう、アルミヤプラボスディアの精鋭部隊トゥマンを指揮するベネシュ隊長は、一瞬の間を置いて答えた。「戦力の4割は削られた。」その報告に、椎名は短い沈黙を挟み、冷ややかに呟く。「全滅か…。特殊作戦群はまだそこまでの被害は出ていない。」ベネシュは唇を噛みながら問いかけた。「どうする。」「今こそ撃鉄を起こせ。反共主義者に鉄槌を下すのだ―...

197.1 第186話【前編】 31.01.2025

3-186-1.mp3「三波…。」ハンドルを握る手に力が入る。先ほど耳にした三波の死亡報告が、黒田の胸に重くのしかかっていた。「お前なら、この状況をどう伝える…?」黒田は自分に問いかけた。三波はこの事件に命を懸けた。それは自分たちの仕事が単なる報道ではなく、社会に真実を伝える事こそが「使命」だと信じていたためでもあった。その信念を知っている黒田だからこそ、その死を無駄にすることはできなかった。誰かが、このこと...

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